「歩道橋」
昨晩のこと。
冬らしい冷たい夜風が吹きすさぶ中、私はある大通りを歩いていた。
すると、一匹の黒猫が歩道橋の階段を登っていくのが見えた。
道路の向こう側へ渡るためにわざわざ歩道橋を使うなんて、
なんとも感心な猫である。
というのも、この辺の人間たちは、歩道橋も信号も使わずに
道路を突っ切って向こう側へ渡ることが習慣となっているからだ。
「我々人間も、彼の交通モラルを見習わなければならないな」
そんなことを思いつつ、私は物珍しさから、なんとなくその後を追った。
ところが、彼は階段を登りきったあと、
歩道橋の真ん中あたりで丸まって、動かなくなってしまった。
急にどうしたのだろう。もしかしてどこか悪いのだろうか。
私が心配し彼に近づこうとした時、
向こう側の階段から、もう一匹の猫がこちらに歩み寄ってくるのが見えた。
……彼にとってのゴールは、どうやらここだったようだ。