笛の目ノンフィクション

真に受けないでください。

「歩道橋」

 

昨晩のこと。

 

冬らしい冷たい夜風が吹きすさぶ中、私はある大通りを歩いていた。

すると、一匹の黒猫が歩道橋の階段を登っていくのが見えた。

 

道路の向こう側へ渡るためにわざわざ歩道橋を使うなんて、

なんとも感心な猫である。

というのも、この辺の人間たちは、歩道橋も信号も使わずに

道路を突っ切って向こう側へ渡ることが習慣となっているからだ。

 

「我々人間も、彼の交通モラルを見習わなければならないな」

 

そんなことを思いつつ、私は物珍しさから、なんとなくその後を追った。

 

ところが、彼は階段を登りきったあと、

歩道橋の真ん中あたりで丸まって、動かなくなってしまった。

急にどうしたのだろう。もしかしてどこか悪いのだろうか。

 

私が心配し彼に近づこうとした時、

向こう側の階段から、もう一匹の猫がこちらに歩み寄ってくるのが見えた。

 

……彼にとってのゴールは、どうやらここだったようだ。

 

「夢」

 

『信じれば夢は叶う』

 

そんな言葉は嘘っぱちで、

今日も何千、何万人という大人たちが生きるために働いている。

 

一体そのうちの何人が、自分の生きたい生き方をできているのだろう。

 

朝、そんなことを思いながら、

私はいつものように会社で缶コーヒーを買う。

 

ぴぴぴぴ、と古めかしい電子音とともに、4桁の数字が表示される。

 

 

「あ、当たった。」